ナースステーション前のカウンターから俺の病室は一番近い。

多分10m位だろう、病室の入り口はすぐ目の前に見えている。

実習前の高齢者体験で、車いすの操作だって習っていたはずなのに、うまく動かない。

動かない、なんてものじゃない。


ずっと動かしていなかった腕は、俺の思った以上に気が付いたら細くなってしまっている。

病室の中ばかりいて、なんだか生白くなっているし。


「今日は時間あるから、ゴールまで私付き合いますからね」

星原さん、可愛い顔してるけど、中身は鬼だ。

一漕ぎで、わずか数センチ進むかどうか。

しかも体力も随分と落ちていて少し漕いだだけで疲労感が半端ない。