「榎田さん、ねぇ、もう病室帰る?」

「はい」

ぼんやりとしていた俺を現実に引き戻すような明るい声で話しかけた星原さんに、俺は小さく頷く。

「じゃあ、帰りましょう」

星原さんは俺の車いすのブレーキを解除して、病室の方へ向きを変える。

そして、何故か俺の隣でにっこりと微笑む。

はっ?

「えっ?」

俺の表情に、きょとんとした顔をする?


押せよ。

きっと俺の言いたいことが伝わったのだろう。

星原さんはもう一度意地悪そうに微笑んだ。

「腕は、動きますよね?」

こっ、こいつ……!!
悪魔だ。いや、鬼だ。


久しぶりにイラっとした。

イラっとしたというか、事故に遭ってからずっと平坦だった感情がわずかに波打ったようなそんな感じがした。