翼の折れた鳥たちは

「俺の担当理学療法士の葵ちゃんは、いつもはこんなに近い位置にいるはずなのに、屋上で歌う葵ちゃんは俺の手の届かない場所に居るんだ。屋上で歌う葵ちゃんはいつも輝いて見えた」

頬に熱いものが伝っているのに気が付いたのは、ずっと後になってから。

「いつか自分に自信がついて、這ってでも屋上まで行くことが出来るようになったら葵ちゃんにまた会いに来る。リハビリ室にいる葵ちゃんじゃなくて、屋上で歌う葵ちゃんに会いに来る。だからそれまで、葵ちゃんには会いに来ない」


「敦也くん……」

どうにか言葉になった言葉で、敦也くんの名前を呼ぶ。


「ずっと、葵ちゃんの歌に救われてた。感情が平らになってた時期、葵ちゃんの歌で心が震えた。諦めたくなった時も、泣き叫びたいときも、孤独感を感じた時だって、葵ちゃんが俺の気持ちを代わりに歌で歌ってくれている気がしてた」


少しだけ照れ臭そうに敦也くんが視線を彷徨わせる。