敦也くんが笑ったせいで、私が口を尖らす。
すると、ますます楽しそうに敦也くんが声をたてて笑う。
「葵ちゃんとこうやって過ごすのも、最後かと思うとなんか淋しいな」
目尻の涙をすくいながら、敦也くんがポツリと言った。
「会いに来てよ。私はまだ、ここにいるから」
鼻の奥がツンとする。
お別れの時間が迫っている。
「ううん。会いに来ない」
「はっ?」
「嘘。俺さ、目標が出来た」
素っ頓狂な声をあげた私に、少しだけ笑った敦也くんがはっきりとした言葉で口を開く。
「俺さ、毎日テラスで葵ちゃんの歌聞いてた。車いすじゃ行くことが出来ない屋上で歌う葵ちゃんの歌は俺を励ましてくれた」
「うん」
敦也くんの声は優しい。

