「ねぇ、葵ちゃん。朝練の歌、なんて曲?」
リハビリ室の一番奥まで来たとき、急に車いすを停めた敦也くんが背中越しに尋ねる。
「えっと……」
一瞬、言葉に詰まった私を敦也くんが振り向いてみる。
「あぁ、朝練中に、葵ちゃんの唄聞けるって分かっていたら、もっと早く携帯の電源入れて録音しておくんだった」
冗談交じりに敦也くんがそんなことを口にする。
って、えっ?!今なんて……。
「敦也くん、携帯の電源入れたの?」
「うん。これからは外の世界と繋がっていかないといけないからね」
事故以来ずっと電源が切られていたままだった敦也くんの携帯電話。
少しだけ照れ臭そうに見せてくれたそれには、最近人気のアーティストの写真が待ち受け画面で存在感を放っている。

