◇◇◇
「今まで、ありがとうございました」
11時過ぎ。
敦也くんが一人でリハビリ室に挨拶に訪れた。
いつものジャージ姿のラフな格好ではなく、Tシャツに白いシャツを羽織って、ジーンズ姿。
髪の毛だって、今日は綺麗に整えられている。
本当に退院するんだ。
頭では分かっていたものの、ようやく実感してきた。
敦也くんのご両親は退院手続きを行っているみたいだ。
敦也くんが感慨深そうにリハビリ室を車いすで一周しながら隅々を見て回る。
「たくさん思い出が出来たでしょ?」
「なんかもう既になつかしい」
敦也くんの後ろについて歩きながら声をかけると敦也くんは小さく息を漏らすように笑った。

