屋上に出ると、洗い立ての太陽の光が全身に降り注ぐ。
私は数回、大きく屋上の爽やかな風を吸い込む。
透明な澄んだ空気が全身に行きわたり、身体が軽快になった気分だ。
もう一度だけ思いっきり息を吸い込んで、私は話を始めた。
「16番。星原 葵です。よろしくお願いします」
私もオーディションの練習。朝練だよ、敦也くん。
だけどこれが私の出来る精いっぱいの退院祝いなんだ。
「この曲は、将来に悩んでいた中途半端な私の背中を押してくれた大切な人のために作りました」
聞いててね、敦也くん。
私はまだ誰にも聞かせていないその歌を静かに歌い始めた。

