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「葵ちゃん、あと1セットだけ歩行訓練、お願い出来る?」

「うぅ、うん。あと1セットだけなら……」

次の人のリハビリの時間が迫ってるんだけどなぁ。

時計に一瞬視線を移して確認したけれど、あと1セットだけなら何とかなりそう。

それよりも、敦也くんが生き生きとした瞳を輝かせて『歩きたい』と体全体で表現しているんだから、断るなんて出来なかった。


敦也くんは両足に長下肢装具を装着して歩行器で、リハビリ室前の長い廊下を歩く。

歩行訓練を開始した当初は、アシストする側の私もくたくたになるほどだったけれど、敦也くんの両腕や体幹の筋トレの効果も手伝って、部長が驚くほど上達している。