「じゃあ、俺もう1セット頑張っていこうかな」

敦也くんはそう言うと、プッシュアップスタンドをもう一度自分の方に引き寄せる。

「頑張るのはいいけど、あんまり無理しちゃだめだよ」

「うん。ありがと」

私は立ち上がり、敦也くんに背中を向けて、次の患者のリハビリに向かおうとした時だった。


「葵ちゃん」

穏やかな声が私の背中にかけられる。

ゆっくり振り向いた私に、敦也くんは少し不安な気持ちを無理矢理隠すかのような笑顔を浮かべている。

「1つだけ、聞いてもいいかな?」

何事だろうと首を傾げながら、頷いた私に敦也くんが何か覚悟を決めるかのように大きく息を吸い込むのが分かった。