「理学療法士でいるのが葵ちゃんはもったいないね」

マットから車いすに移乗すると敦也くんが、そんなことを言い始める。

「俺が葵ちゃんなら歌手になってるだろうな」

「もう、何言ってるの」

貼り付けたような笑顔を無理矢理作ってそんなことを言うと、
「冗談なんかじゃないよ」

敦也くんがポツリと呟くように口を尖らせる。

「葵ちゃんは、歌手を諦めて理学療法士だったんだもんね」

「うん」

「俺は、その逆」

今日の敦也くんは何だか忙しい位に表情がコロコロと変わる。

少しだけ恥ずかしそうに、頬を朱に染めながら舌をチロリと出して肩を小さく竦める。

「逆?」

敦也くんの言っていることの意味を理解できずに尋ねると、敦也くんは頷いて見せた。