これが普通の人達ではない事は、すぐに分かった。
 
車は救急車ではなかったし、人々は喜咲と雪絵を取り囲むと、躊躇わずに喜咲の傷の処置を始めたのだ。

明らかに事件性の高い、胸からの出血を。

良く見ると、雪絵と見知った仲のように喋っている人もいた。
 


孝は茫然としていたが、すぐに近付いてきた男性に声をかけられた。

のっしりと大柄の、ごつい男の人だった。

「おい、君は一般人か?」
 

覗き込まれるように、そう訊かれた。


「……違うような、『そうです』って言いたいような……」
 
威圧されつつ、孝は口の中でごにょごにょと呟いた。

「何わけの分からんことを言ってるんだ」
 
呆れたように言われた孝は、少し迷ってから、彼に尋ねた。


「……あなた達は、『テミス』?」


「ああ、そうだ。

何だ、ちゃんと知ってるんじゃないか」


「先日、親戚に……おっちゃん――じゃなくて、山戸乙矢に、言われたんだ。


『入らないか?』って」


「そんな、まるで風呂みたいに簡単に……」



「……まあ、実際はもっと色々、長い話だったけどね」