孝は、頭上をひゅんっと過った熱風に気付き、
「え……」と、喜咲を見上げた。
「ちっ……!」
「うわあーっ! もういる!」
「……もういる、じゃないよ坊主……」
喜咲は肩で息をしながら、孝を睨み付けていた。
「……殺す……!」
孝は丸腰で。
雪絵はベンチで朦朧としている。
もう今度こそ助からない。
孝は一瞬、絶望を顔に浮かべた。
その様子を見た喜咲は、にやりと笑う。
しかし喜咲は、血の上り切った頭で、大切な事を忘れていた。
「――死ね!」
………かちり………。
喜咲が叫ぶように言った直後に、孝は血まみれになった。
「………え………?」
『死ね』と言われたのに、覚悟を決めたタイミングに、
とどめの一撃はなかった。



