「いやいや嘘じゃないって、これだけは。
だって証拠に、俺の牙も爪も血が付いてないでしょ? まだ食事してないんだよね~……」
おぞましい事を、あっけらかんと言う狼に、小夜子は寒気がしたが、青子の無事が確認出来ただけでもほっとした。
何せ本人が本当に困っている様子なのだ。
ふさふさの黒銀色の尻尾も、落ち着かないように揺れている。
(そういえば、青子さん……物凄く方向音痴だったっけ。
前にサークルのメンバーで中華街に行った時も、青子さんが街並みに気を取られ過ぎて余所見して、
いつの間にか先輩達の後ろから大分離れちゃって、私達揃って迷子になったんだ……)
あの時、同じく方向音痴の小夜子はかなり迷惑をしたが、これまでの人生で、こんなにも誰かの方向音痴に感謝した事はなかった。
多分青子は今、反対側の北口をうろついている……。
そのくらいの間違いを、素でやってしまうくらい大雑把なのだ。
それが青子だ。
「さて、困った困った」



