いよいよ眠れなくなってきた私はむくりと起き上がる

水でも飲んで落ち着こう、そう思いスリッパを履いて部屋を出る

長くて暗い廊下に出た途端、私は後悔する

・・・こわい

そう自覚すると同時にトイレに行きたくなるのは、人間めんどくさいことにきっとそうできているのだろう

オバケでも出るんじゃないの?

不安の塊が私に話しかける

ポジティブの塊はそれに強気にこたえた

出るわけないじゃない!

不安の塊は私の恐怖を上手に煽る

だってほら、足音が近づいてくるよ?

お兄ちゃんとか、伯父さんとか、ユキノかもしれないじゃない

逃げた方がいいんじゃない?幽霊じゃなくても、泥棒かもしれないよ

泥棒なんて入ってこないよ、ユキノが戸締りをきちんとしないなんてこと、ありえない

不安の塊はそれを聞くと高笑いする

入られて、死にかけたことあるんじゃない?

否定の言葉よりも先に私の脳裏にはある光景が映し出される

こ わ い ・・・

・・・・・・・・・火事?

それは何度か瞬きをしていると実際に目で見えるようになった

身に覚えのあるのか、はたまたデジャブなのかはわからないが、ポジティブの塊は私の見ている何かを無視して言う

ないよそんなの!

こ わ い よ ・・・

そっか、ないのか〜。でもどうしよう!もう足音はすぐそこだよ!

えええ、まずいよ!でも逃げちゃダメだよ、透お兄ちゃんだったら話したいし、伯父さんだったらキツめのお説教だよ!?

こわ い・・・

そんな言い合いがあっている間にも私の脳は目の前に火事のシーンを写し続けている

震える体をいなす

しかし奥歯はかちかちと音を立てたままだ

こわい。こわい。こわい。たすけて。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。たすけて。たすけて。たすけて。こわい。たすけて。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。

やがて目の前に炎が迫り、私の肌を、ネグリジェの布を、髪を、カーテンや家具を、焼くように、炎が、ほのおが、

その時、目の前が弾けたように真っ白になる


『た すけ て、お にいさ ま・・・!』


抱き上げれる感覚のみを残し、私の意識はまたもや私の手の届かないところへといってしまった