目の前の公園の遊具を見て、昔のことを思い出した。
凛兎って、高い遊具に登るのが苦手だったんだよな。
ジャングルジムで苦戦している凛兎が可愛くて笑って、
怒られた記憶がある。



『おせーぞ、凛兎!』
『う、うるさい…っ、凛音くんが早すぎるの!』
『早くしないと置いてくぞー。』
『待って待って、今行くから…!』



置いていく、と言うたびに顔色を変えて必死になった凛兎。
一人になるのが怖かったのか、ただの寂しがりだったのか。
聞いたところで今はもう覚えていないだろう。


「…あたしさ、アメリカに行くことにした。」
「アメリカ?」


愛姫の言葉を思わず繰り返した。


「本当はずっと凛音のこと、諦められなくて…揺らいでたの。
でもこの間凛音と会ったあと、ちゃんと考えて、決めた。」


確信を持つようにそう言う愛姫。
高校の時に愛姫が通訳の仕事をしたいと話していたのを思い出す。
アメリカに行きたい、とか言っていた気がする。


「通訳者、目指すんだ。」
「…うん。」


頑張ってみる、と愛姫が微笑う。
大学生のくせに、俺にはまだ夢とかやりたいこととか明確なものがない。
だからしっかり将来に向かっている愛姫が、正直に羨ましい。