少し浮き足立って家に帰ると、お母さんが夕飯の用意をしていた。
おかしいな、いつもだったら仕事で家を出る時間なんだけど。
しかも何やらいつもより豪華な食事がテーブルに並べられている。
わたしは鞄を持ったまま台所に入って、お母さんの横に立ってみる。


「…ただいま。…何でいるの?」
「何でって失礼ねー、もちろん休み取ったのよ。」
「…なんかすごく豪華な夕飯だね。」
「あら?今日から凛音(りおん)くんがここで生活することになったって前に話さなかった?」

「凛音くん?」



はて、とわたしは首を傾げる。



「やだ、忘れないでよー!あなたのお兄ちゃんじゃない!
大学が家から近いから、今日からここで生活するのよ。
最初の日くらいはちゃんと皆でご飯食べようと思ってね、」




…凛音くん。
…お兄ちゃん。
…今日から、うちに…?




テーブルに並べられてゆく料理を眺めながら考える。
そう言えば先週、うちに誰か来るって話をお母さんがしていたような…。
わたし、テレビを観ててちっともまともに聞いていなかったけど。
お皿のからあげをつまもうと手を伸ばすと、玄関のチャイムが鳴った。


「あ!きたきた!凛兎、ちょっと出てくれない?」


後ろも見ずに、料理をしながらお母さんがそう言った。
…からあげつまもうと思ったのに。
誰かも確認せず、渋々玄関まで行って戸を開ける。
そして現れた人物を見て、わたしは固まった。