君を知らないわたしと、わたしを知っている君。



「よお、黒瀬。お前まーた安達に引っかけられたのかー?」
「やだ安達さん、メイクなんかしちゃってー。…似合ってないよ?」
「安達のクラスにあの時の写真ばら撒いて帰るか。誰か一緒に行く人ー!」


中学のときの記憶が蘇ってくる。
…もう忘れたいのに。
…大智のせいでいつも思い出す。
…やっぱり学祭なんか来なければよかった。


「…あのさ、」


突然中学のクラスメイトたちが静かになる。


「俺の妹いじめるのやめてくんない?」
「は?」


目の前に現れたのは、お兄ちゃんと翔太くん。
大智はずっと下を向いている。


「なんだよお前…安達に兄貴いるなんて聞いてねーぞ、黒瀬。」
「…俺だって知らねーよ。」
「まあ、邪魔な奴は消すまでだよな。」


一人がお兄ちゃんに殴りかかる。
お兄ちゃんはその腕を平気で受け止めた。


「…おおおおまえ、」
「なあ、場所考えろよ。やるなら外行くぞ。」


殴りかかった男の子の顔が真っ青になる。
いつもと全然違うお兄ちゃんに、わたしも少し戸惑う。


「こっ…こいつ桐生凛音だ!…やべえっ、逃げろ…!」


ひとりの男の子の声にみんなが慌てて逃げ始める。
…え?…お兄ちゃんの名前、なんで…。


「…お兄ちゃん?」
「凛兎ちゃん、大丈夫か?」


結局、中学のクラスメイトも、大智も、みんな行ってしまった。
翔太くんがわたしの顔を覗き込む。


「な、言ったろ?凛音はめちゃくちゃ強えって。」
「…うん、」

「…ごめん、びっくりさせて。どっか入って話そう。」


ずっと黙っていたお兄ちゃんが優しく微笑う。
もう、さっきの怖い顔ではなくなっていた。