…そう言えば賢吾さんにも子供がいて、
一応兄ができたらしいけど
地方の寮制高校に行ってるから、まだ会ったことがない。
今年卒業したと聞いた。
名前は…何だったかな、
「あれ、」
ふと、後ろから聞き覚えのある声が聞こえて我に帰る。
低くて、少しハスキーな声。
『はーい、安達凛兎ちゃんが登校しましたー!』
『今日は誰とホテルに行くのかなあ?』
『安達、お前名字変わるんだって?親子して尻軽女かよ!うける!』
『おい、被害者ぶってんじゃねーぞ!被害者は黒瀬だっつの。』
中学時代の映像が脳内で再生されて、寒気がした。
…もう、思い出したくないのに。早く忘れたいのに。
「…凛兎じゃん。」
…やっぱりそうだ。
声の主がわかり、反射的に逃げようとして腕を掴まれる。
「ちょ、待てって!」
「離して!」
中学の時の元彼の黒瀬大智。
わたしが今一番会いたくない人。
わたしは彼のせいで孤独な中学生活を送った。
腕を掴む手を振り払おうと抵抗する。
「逃げることないだろ、俺はお前のことずっと探して…!」
「話すことなんて何もない!いいから離して…っ!」
