芽依はわたしの腕を引っ張ってずるずると教室まで連行する。

…こういう行事、本気で苦手なんだよ。

去年は逃げて逃げて逃げまくってなんとか参加を免れたのに。



「はいはい、皆さん!桐生凛兎を確保しましたー!」

教室に勢いよく入ると、クラスメイトから拍手が起こり
みんながわらわらと寄ってくる。
…え、なに。怖いんだけど。


「桐生さんって、絵描くの得意なんですよね?」
「えっ…なんで、」
「安東さんから聞きました。」


わたし芽依に絵描くの好きだって言ってないんだけど。
芽依の方を見上げると、彼女は不気味に笑い出す。


「ふっふっふっ…前に凛兎にノート借りたときに描いてあった落書きが、
素人の落書きじゃなかったんだよねえ…」
「なんだって…」
「観念しなさい!凛兎!」


そう言えば前に芽依に古典のノートを貸したことがあったっけ…
古典ほど眠い教科は無いから、授業中はいつも落書きで時間を潰している。
なんと言う失態…


「お願い桐生さん!今回の学祭でコミック喫茶をやりたいの!」
「…コミック喫茶?」
「うん、クラスみんなで色んな漫画のキャラクターのコスプレをして、喫茶店やるの!」
「桐生さんにみんなの衣装のデザインと、
教室のデコレーションのイラストをお願いしたいのー!」
「漫画部が一人いるんだけど、一人じゃ足りなくて…」


正直言うと、あまり人と関わりたくないって言うのが本音で。
みんなの期待を裏切ってしまうのも嫌だし…
求められてること、できるかどうかもわかんないし…


「…わたしやっぱり、」
「まさかクラスみんなのお願いを断ろうなんて…思ってないよね?」


芽依の圧力に押される。
…デザインとイラスト。
確かに絵を描くのは好きだし、描くだけなら家でもできるから別にいいのだけど…


「…ご期待に添えるかどうかは、わかりませんが…」


しぶしぶ承諾すると、クラスメイトたちが歓喜の声をあげた。
…ちょっと大袈裟じゃない?


「さーすが、あたしの親友!」
「…あのさ、間違ってもわたしが衣装着たりなんてこと、起きないよね。」
「…さあ?どうでしょう?」


すっとぼけたような芽依の返事に、
当日は何があっても学祭を休もうと決心した。









…はずなのに。