君を知らないわたしと、わたしを知っている君。



「おかえりー」


家に着くとお母さんがちょうど家を出るところだった。


「あら、二人で帰ってきたの?もう仲良しになったのね!」


バシバシと肩を叩かれて、そんなんじゃない、と少し反論する。
お兄ちゃんは気にしていないようで、一言いってらっしゃいと言った。
お母さんはなぜか上機嫌で仕事に出かけていく。



「そう言えばさ、」

階段を登ろうとして、お兄ちゃんに呼び止められる。


「前に凛兎のこと引き止めてたやつって、誰?」


優しい表情だけど、声は少しいつもと違う。
少し、低くて…別に怖い声ではないのだけど。

…どうしよう。
…過去のこと、あまり知られたくないかも。
…でも、助けてもらったしな…。
誰にも話したことないから隠そうか迷ったけど、
何となくお兄ちゃんだったら大丈夫なような気がして正直に話すことにする。