お兄ちゃんは手を止めて、写真を覗き込む。


「うん、そう。俺が小さい時に亡くなったらしい。」
「…そうなんだ。」
「俺、全然覚えてないんだよな、母さんのこと。」


物心ついたときにはもう居なかったからさ、とお兄ちゃん。
物心ついたとき…か。
自分のことを考えてみる。

…全然思い出せない。
仲の良かった友達、家族で行った場所、家の周りの景色…。
何も思い出すことができない。
唯一覚えているのは、今の趣味でもある絵を描くこと。
それだけ、小さい頃から好きだったことを覚えている。

頭が痛くなりそうで、考えるのをやめてもう一度段ボール箱を覗き込むと
小さな青いアルバムが目に入った。



「これは…?」



アルバムを取り出して開こうとすると、
お兄ちゃんに取られてしまう。


「あ。」
「これは、だめ。」


優しい笑顔でそんなことを言うもんだから
そっか、と頷いてしまう。


「凛兎、そっちの棚組み立ててくんない?」
「あ、うん…。」



なんだか気まずくて、すぐに棚の組み立てを手伝い始める。

…なんだろう、元カノさんとの写真とか?
…妹だったら見せてくれてもいいのに。
そんなモヤモヤした気持ちと戦いながら、片付けを続けた。