じゃ、また。
そう言って賢吾さんは玄関から出て行った。

ゆっくりと玄関のドアが閉まる。

お父さんの手紙にも、お兄ちゃんを大事にするように書いてあった。
そう言えばお兄ちゃんが初めて家に来た時、お母さんは彼の昔を知っているようだった。
何でみんな、昔のお兄ちゃんを知っているんだろう。



お兄ちゃんの部屋をノックする。
…返事はない。
恐る恐るドアを開けると、お兄ちゃんはこちらに背を向けてベッドに横になっていた。


「…あの、…大丈夫?」


小さく声をかける。お兄ちゃんは黙ったままだ。


「…ごめん、…わたし戻るね、」


この無言の空気に耐えられなくて、
わたしは部屋を出ようとする。


「……生きてるんだ。」

「、え?」
「俺の本当の母親。まだ生きてるんだって。」



呟くようにお兄ちゃんがそう言った。
わたしは何も言えずに、黙ってしまう。


「本当は父さんと離婚したあとに癌になって、
俺に心配かけないように死んだって嘘ついてたんだって。

…けど、もう長くないから最後に俺の顔見たいって…

…意味わかんねーよな。
最後に会いたくなるなら、最初から嘘なんかつくなよ…」