「行ってきます。」


誰もいない家に、わたしの声が響く。
お母さんは今、仕事の帰り道だろうか。
ひたすら苦しい毎日を過ごして、やっと高校生になった。
けど、わたしの時間はどこか遠い昔で止まっているようだ。


…何かすごく、大切なことを忘れている気がする。



見上げた空は憎らしいほど青くて、
小さく溜息をついた。
桐生凛兎(きりゅう りと)、
そんな高校二年の四月。