泣きたい。
泣いてしまいたい。

それが、許されるならば。

舟に乗って、独り、湖に出た。

黒い衣裳が闇にとけて、ザンバラの髪は風に乗った。

ふと水面に映った物を見た。

映っていたのは、自分ではない。失った者と、それを奪った者だ。

人には別れが平等に訪れるものだが、これはあんまりではなかろうか。

もう、いっそ月も隠れてしまえ。
己を照らすものは、もう、要らない。

望んではいけない。
もう、望んではいけないのだ。