ある日のことだった。

榮氏は離宮の庭で、一人で舞っていた。

榮氏は歳若い頃から、舞姫として名高い女だった。

誰も楽を奏でたりはしない。

榮氏は記憶の中の楽を口遊みながら、ゆったりと裱を持て余した。

昔々の事。
榮氏はぼんやりと思い出した。

母を師として習った舞を、亡き父は、誰にも負けない、榮氏だけの物だと言った。

父亡き後、母が再婚し、相手の連れ子を自分よりも慈しむようになった。