「ねえねえ、真緒ちゃんは、コロッケって作ったことある?」
ガタンゴトンと電車に揺られていると、
隣に座っている凌くんはわたしをのぞき込むようにしてそう尋ねてきた。
「コロッケ?」
「うん。クリームが入ってるやつだよ」
「クリームコロッケかぁ。
作ったことないなぁ」
わたしがそう答えると、
凌くんは「そっかぁ」としゅんとした。
わたしもお母さんの代わりにたまに料理を作るけれど、コロッケは作ったことがない。
「凌くん、クリームコロッケ食べたいの?」
「あのね。ママがよく作ってくれてたんだ。僕の大好物。翔兄ちゃんも大好きなんだよ」
凌くんは膝の上に置いていた自分の手を、わたしの手のひらに重ねて。
「でもね、もう食べられないんだ。
ママ、僕が5歳のときに病気で天国にいっちゃったんだ」
凌くんはポツリポツリとまるでママを思い出すように言った。



