家族でも、幼なじみでもなくて。

「とりあえず、これ飲みなよ」

「いただきます…」


一口飲んで、そっと息を吐いた。


「太一くん、」

「ん?」

「どうしよう……」

「……優衣。ゆっくりでいいから、話してごらん?」


太一くんの優しい声に安心して、また涙が溢れてくる。


「お母さんも、りっくんも、大好き、なのっ、に……」

「うん」

「でもっ、りっくんが、お母さんを、奪ってっ……」

「うん」

「お母さんはっ、りっくんを、可愛いがって……りっくんが、ぜんぶっ、大切な、ものをっ、奪ったんだ……」


嗚咽でうまく声が出ない。

太一くんはそんな私の頭を撫でながら、優しく抱きしめてくれた。


「優衣は、これからどうしたい?」

「どうって?」

「帰りたくないなら、俺の家にいてもいいよ」

「え……?」


びっくりして思わず顔を上げる。


「父さんも母さんも、わかってくれると思う。優衣がこんなに苦しんでるのに、放っておけるわけないだろ?」

「ありがとう……」


太一くんの優しさは本当に嬉しい。

だけど、私にとってお母さんとりっくんは嫌いになっても大切なんだ。


「太一くんの気持ちは嬉しいけど……」

「わかった。辛くなったら、またいつでもおいで」

「うん」


太一くんはもう一度優しく頭を撫でてくれた。

なんでだろう?

太一くんの体温が伝わってきて

すごく幸せな気持ちになる。


「……俺なら…絶対に……」


太一くんは何か言っていたけど

私はそのまま太一くんの腕の中で、重いまぶたを閉じた。