俺は全身から力が抜けるのを感じた。つまりは、そういうことで。俺に触れられるのが嫌なのではなくて、汚いから“あれ”を扱った手で触って欲しくないと。
(こいつ、ありえない……)
脱力すると同時に、無性に苛々した。結局こいつの中心は、悪い意味であろうが“やつら”なのだ。泣かせたのは俺だが、泣いた原因は“あれ”。俺を呼び出す理由にも決まって“やつら”が関係していて。それが気にくわない。
そこまでお望みなら……と、俺は行動に移す。もう自棄糞だった。
「ひゃっ」
思いきり触れてやった。片手を頬に添え瞼から目尻、頬へと順に。涙を拭うように。そっと俺の唇で。
「せっ千石さん……っ」
二度目は赦さない。押し退けようとする両手を空いたもう片方の手で纏める。動けないように壁と俺の身体でしっかりと挟んで。
「ん……」
羞恥に顔を赤く染め上げ、時折声を上げながら、それでも諦めてはいないようで顔を背けようとする。けど、そんなものは無駄な抵抗だ。もう、逃げられはしない。有り難いことに、そいつはぎゅっと堪えるように目を閉じている。俺が次に何処に触れるかなんて、わかりようがないのだ。
俺は掴んでいるそいつの両手を離すと今度は両手で頬を包み、最後に、しょっぱさが残る唇を、そいつのそれにそっと押し当てた。
とっくの昔に日付は変わっていた。
“やつら”が現れる度に呼び出し呼び出され駆除してもらい駆除する。これは、もう隣人の付き合いを超えている。俺は“やつら”を退治(あいつ曰わく)するためだけの人間じゃない。だったら、いっそのこと一線を超えたって構わないだろう。誰にも文句は言わせない。だいたい、隣人だからと言って甲斐甲斐しく世話を焼く程、俺はお人好しじゃない。
恨むなら俺の隣りに越してきて図々しくも駆除を頼んだ自分を恨め。俺を信用した、自分が悪い。そうだろう?
唇を離すと、ありえないくらいそいつの息が乱れていた。これ以上ない程顔を紅潮させ、目は虚ろで焦点が合っていない。身体はぐったりと、壁にもたれている。どくんと、胸が高鳴り全身から汗が吹き出そうになった。思わず目を逸らしてしまう。
そもそもこうなったのはキスの間こいつがまったく抵抗しなかったからで。ついつい加減を考えず長い間してしまったのだけど……。この歳で初めて、ということはないだろうし。慣れていないのだろうか。
「……なぁ」
俺が口を開いたと同時、こいつがポツリと、漏らした。
「……もう一回、お風呂入らなきゃ」
(こいつ、まじでありえねえ……)
隣人さんいらっしゃい 1
(こいつ、ありえない……)
脱力すると同時に、無性に苛々した。結局こいつの中心は、悪い意味であろうが“やつら”なのだ。泣かせたのは俺だが、泣いた原因は“あれ”。俺を呼び出す理由にも決まって“やつら”が関係していて。それが気にくわない。
そこまでお望みなら……と、俺は行動に移す。もう自棄糞だった。
「ひゃっ」
思いきり触れてやった。片手を頬に添え瞼から目尻、頬へと順に。涙を拭うように。そっと俺の唇で。
「せっ千石さん……っ」
二度目は赦さない。押し退けようとする両手を空いたもう片方の手で纏める。動けないように壁と俺の身体でしっかりと挟んで。
「ん……」
羞恥に顔を赤く染め上げ、時折声を上げながら、それでも諦めてはいないようで顔を背けようとする。けど、そんなものは無駄な抵抗だ。もう、逃げられはしない。有り難いことに、そいつはぎゅっと堪えるように目を閉じている。俺が次に何処に触れるかなんて、わかりようがないのだ。
俺は掴んでいるそいつの両手を離すと今度は両手で頬を包み、最後に、しょっぱさが残る唇を、そいつのそれにそっと押し当てた。
とっくの昔に日付は変わっていた。
“やつら”が現れる度に呼び出し呼び出され駆除してもらい駆除する。これは、もう隣人の付き合いを超えている。俺は“やつら”を退治(あいつ曰わく)するためだけの人間じゃない。だったら、いっそのこと一線を超えたって構わないだろう。誰にも文句は言わせない。だいたい、隣人だからと言って甲斐甲斐しく世話を焼く程、俺はお人好しじゃない。
恨むなら俺の隣りに越してきて図々しくも駆除を頼んだ自分を恨め。俺を信用した、自分が悪い。そうだろう?
唇を離すと、ありえないくらいそいつの息が乱れていた。これ以上ない程顔を紅潮させ、目は虚ろで焦点が合っていない。身体はぐったりと、壁にもたれている。どくんと、胸が高鳴り全身から汗が吹き出そうになった。思わず目を逸らしてしまう。
そもそもこうなったのはキスの間こいつがまったく抵抗しなかったからで。ついつい加減を考えず長い間してしまったのだけど……。この歳で初めて、ということはないだろうし。慣れていないのだろうか。
「……なぁ」
俺が口を開いたと同時、こいつがポツリと、漏らした。
「……もう一回、お風呂入らなきゃ」
(こいつ、まじでありえねえ……)
隣人さんいらっしゃい 1

