「いいからはやくのけ...」


そうやって呆れたようにつぶやく言葉が、余計にわたしの脈を速くさせた。


「あっ、う、うん!」


暁の上から急いで飛び退く。


びっ...くりしたぁ。


暁が...助けてくれた...。


ずっと避けられていたのに...。


嬉しすぎて、思わず涙が出そうになった。


どうしてこんなに......ドキドキが止まらないの?


「暁、ありがとう...」


遠慮がちにお礼を伝えたけど、暁は無視して立ち上がり、黒い水筒を棚の奥から手を伸ばして取ると、シンクで洗いはじめた。


「ち、ちょっと!お礼ぐらいちゃんと聞いてよ...!」


わたしはむっとしてそうヤツの背中に投げ掛けた。


水の音にかき消されてはいないはずだ。


助けてくれたと思えば無視されて、とても悲しかったのだ。


するとヤツは水を止めてゆっくりとこちらを振り返って。


「...今月いっぱいで、この家を出る」


まるで他人事みたいにそう言った。