そんなことを考えていたのが迂闊だった。


足元の階段が、あと1段あることに気付かなかった。


転ぶ、と思った時にはもう遅く、私の体は前に傾いていた。


足なんて出して踏みとどまる余裕なんてなかった。


これ、顔から落ちるやつだ。


だけど、私は温かいものに収まっていた。


「大丈夫かよ、危ねぇ。」


声を聞いて、一気に心拍数が上がった。


いつもはこんなに間近で話さないからだろうか。


声をかけられても、私はしばらく動けなかった。


「お、おい、大丈夫か?」


「……あ、ごめん、ね……」


恥ずかしい。冗談でもあんなことは平然となんてしていられない。


「か、帰ろう。」


「そうだな。」


「……今日はありがとう。

それに、夏休みの間の電話もありがとう。」