今日は夏休み最後の日曜日。
たくや君のお父さんがたくや君とたくや君の弟のフミヤ君と僕をプールに連れて行ってくれることになっています。
僕は早起きをして、お母さんがまだ早いと言っているのに待ちきれなくなって家を飛び出し約束の時間より随分早くたくやくんの家に着いてしまいました。
たくや君のお父さんが「予定の時間より早いけれどもよし出発だ!」と言ってくれたので、僕は嬉しくなってしまいました。たくや君もフミヤ君も楽しそうでした。僕たちはプールに着いたら何をして遊ぼうか?ということなんかを話しながらプールへ向かいました。
プールに着くとすぐに泳ぎたかったのだけど、準備体操をしなくてはいけないとたくや君のお父さんに言われ、泳ぎたいのを我慢して四人で準備体操をしました。
準備体操が終わると一目散にプールに飛び込みました。プールの中では競争したりとても楽しくみんなで遊びました。たくや君のお父さんにクロールも教わりました。
フミヤ君はまだ小さいのにとてもうまく泳ぐことができました。
僕のお父さんは僕が怖がると優しく僕のことを守ってくれようとしますが、 何かを強く教えたりはしません。だから僕は泳ぎがなかなかうまくならなかったのかなぁ?なんて思ったりしました。
でも、そのどちらが良いのか僕のにはわかりませんが・・・。
夕方になる前に僕たちはプールを出ました。ちょっと疲れました。
たくや君のお父さんはたくや君とフミヤ君を守りながら導いているように見えました。そしてたくや君はフミヤ君を守ってるように見えました。
一人っ子の僕はちょっと羨ましいなぁ、と思いました。

プールの帰りにたくや君のお父さんが「何か食べて行こう!何が食べたい?」と言ってくれたので.、僕たち3人は「今まで行ったことのないところがいい」とお願いしました。
しばらく考えていたたくや君のお父さんが「立ち食いそば屋へ行ったことあるかい?」と言いました。
3人ともそこへは行ったことがなくて「そこがいいそこがいい!」ということで、僕たちは立ち食いそば屋さんへ連れて行ってもらうことになりました。
行ったことのないところなので僕たちはそわそわわくわくしてしまいました。
「本当の立ち食いそば屋さんだと座席がないんだ。それだと3人ともお蕎麦に手が届かないよね。だから今日は立ち食いそば屋さんでも座席のあるところへ行こう」とたくや君のお父さんが言いました。
お店の入り口で食券を買ってから、僕たちは座席についてそれぞれ注文したものを食べました。
しばらくすると汚れた感じの男の人が入ってきて、カウンター越しに店員さんに「コロッケ、コロッケ」と何やら催促し始めました。
僕はその男の人を不思議そうに眺めていましたが、その男の人がどことなく変な感じがしてお店の人も周りの人も皆くすくすと笑っていました。中にはゲラゲラ笑う人もいました。
やがてその男の人は何十円か払ってコロッケを二つ買うと外へ出て行きました。その人が帰った後もまだ笑ってる人がいました。店員さんもその男の人をバカにしてるように感じました。
僕たちはお蕎麦を食べ終わって、たくや君とお父さんに連れられお蕎麦屋さんの真ん前にある駅入って行こうとすると、駅の入口の所にあるベンチの下で誰かが何かをやっていました。
よく見るとそれはさっきの男の人で、ベンチの下の奥の方にはとても怯えている痩せ細った中くらいのサイズの犬が一匹いました。
その怯えている奥に隠れるように入ってしまっている犬にその男の人は必死に手を差し出してコロッケをあげようとしていました。ベンチの下にいる犬にコロッケをあげようとしているのですからその男の人も地べたに体をつけなくてはならなくて洋服がみるみる汚れていきました。そんなことには全然構わずになんとかコロッケをあげようとその男の人は必死に頑張っていました。
僕は何とも言えない不思議な感覚に襲われました。
はっきりとはわからなかったのだけれどさっきその男の人のことを笑った人たちが正しくなくてその男の人の方が正しいような気がしました。
なぜ、お蕎麦屋さんにいた人たちはその男の人のことを笑ったのだろうと考えました。
服装が汚かったから?きちんと話せなかったから?コロッケはたった二つだけ買って帰ったから?
僕にはよく分かりませんが、その男の人が笑われたのはその男の人の中身とは全く関係ないことのように思いました。
それにしてもなぜ野良犬があんなにたくさんの野良猫がいるのだろうと僕は思いました。
犬や猫は人間が人間だけで生きていくのは寂しいからって、元々野生の犬や猫を改良してペットにしたという話を聞いたことがあります。人間が改良してペットにしたというのにこんなにたくさん生きていくのが大変な野良たちがいるというのは人間の勝手なのでしょうか?

僕は拓也くんの家まで一緒に行き、そこから一人で家に帰ることにしました。
帰る途中、野良猫をいじめている男の子たちがいました。その猫はまだ子猫でとてもを怯えて泣いているように見えました。
僕は「やめろよ!」と言いたかったのだけど、怖くてどうしてもそれが言えませんでした。
その男の子たちが子猫を囲んでいる すぐ横を何も言えずに通り過ぎました。
自分が弱虫で悔しくて悲しくて何度も目をぎゅっと強く閉じました。
どうしても気になって、しばらく行ったあたりから U ターンしてその場所まで戻ってみるとそこにはもう誰もいませんでした。 もし、子猫が死んでいたらどうしようと思い怖かったのだけど、 子猫はそこにはいませんでした。その辺りをしばらく子猫を探してみましたけれども見つかりませんでした。
また僕の弱虫が僕の頭や胸の中に広がって来てたまらない気持ちになりました。

家に帰るとお母さんが優しく「楽しかった?」と僕を迎えてくれました。お母さんはその後すぐにたくや君の家へお礼の電話をかけました?きっとお母さんの笑顔が伝わるだろうな、と思えるくらいお母さんは優しく嬉しそうにお礼を言っていました?
でも、 僕の頭の中は楽しかったプールのことより助けられなかったこねこのことでいっぱいでした。
あの駅にいた男の人の方がずっとずっと僕より偉いなぁと思いました。
あんなことが恥ずかしがらずにできる人ってすごいなぁと思いました。 子猫をいじめている子供たちを止められなかった自分のことが恥ずかしくて仕方ありませんでした。
ご飯を食べている間もお風呂に入っている間も子猫を助けられなかったことで胸がいっぱいでした。
僕は今までこのようなことは誰にも話さずに 胸の奥にしまいこんできました。
だけど、 今日はお父さんが帰ってきたらこの胸の中のもやもやお父さんに話してみようかなと思います。だって今日は夏休み最後の日曜日ですから 。
それにしても日曜日なのにお父さんはどこへ行ってんだろうなぁ?