「不純な動機だろうが、今の僕には許容範囲さ…恋人同士なら即刻アウトだけど」

唇を噛んだ彼女も一旦は、局面を打開するジョークに笑みを溢したが…

「謙虚過ぎる私って不自然でしょ?
だけどもう…以前の私とは違うの」

慎ましい一言とは対象的に黙り込む彼女の視線がテーブルの上を泳ぐ中、どこか物憂げな笑みを添えた彼女の言葉は深い溜め息の様な余韻を僕に残した…
ディナーを終えた二人が店外へ出ると、夏の象徴でもあるエメラルドの海は雲間から差し込む黄金色の斜陽によって、ラメ入りの夕凪へと移りつつあった。

「これからの予定がもし空欄のままなら、僕のワガママに付き合ってくれない?
勿論、時間的な余裕があればの話だけど」

すると彼女は何かを気にする様な躊躇いの表情で、

「実は今夜、珍しく門限を10時と決めてて…その前後までだったら構わないわ」

「相変わらず多忙なんだね…
だったら君の邪魔をせず、大人しく却下に応じるよ」

「そうじゃないの…自宅に送ってさえ貰えれば問題はないの。
そうすれば多少遠くだって行けるし、そこが素敵な場所なら特に…ね」

「最初からそのつもりさ」

どうしても素直に帰せない気持ちを抑えながら、僕は助手席のドアを開け彼女を乗せると南へ向かうルートへとハンドルを切り、アクセルを踏み込んだ。
フロントガラスに映された夏のシーンが最後にして謎をかける様に、彼女の微笑みと僕の考えている事は、先を読んだ一つの答に辿り着こうとしている。
僕の予感が事実であるとするなら、出来る限りの事をしてあげよう。