アローン・アゲイン

インターを降りると、パーキングのエリア内にある電話ボックスの前で車を停め、僕は時計を見た。

「今、9時を少し回ったぐらいだから…まだ間に合うよ。
彼、待ってると思うよ…君の気持ちをね…」

「…悔恨を全て捨て去る事が出来れば、ここまで苦しまないのに」

彼女は静かにバックからアドレス帳を取り出し、その意味を僕に見せると、ヘッドライトに浮かぶ赤い電話ボックスへと向かった。
その中の彼女が受話器を取ると僕は車のライトを消し、この場所から見下ろせる都会の夜へと視線を落とす。
麗しげな眺望に凭れていると、眼下を彩るきらびやかな夜景も遠く離れたビルの光が寄り添うフォルムだとすれば、距離のある二人の関係に似ているな…と、初めて気付いた。
求めていた答えが例え同じであっても、その未来が互いに違う意味を持つなら奇跡さえ起こらない。
音信が途絶えた空白の2週間で彼女の心境がどのように揺れ動いたかは、解約されたスマホの現状を見れば自ずと察しがつくが、その決意へと走らせた思念が今も根付いている証拠が先程僕の前で開いたアドレスの中に刻まれているとするなら、彼女が見せている強い背中は僕へ向けてではない。
黒く塗り潰された彼の電話番号が躊躇いの傷痕であるなら、無言のアプローチは〈表向きの腹心〉をゼスチャーしたに過ぎないが、ドアを開けた彼女が突然、僕の方を振り返り、贖いとも取れる対義的呟きを口にしたのは〈表向き〉の意味が、その言葉通りだったからだ。

『思い出を全て許す事が私の過ちなら…フィナーレに二度目はないの』