アローン・アゲイン

「心の結束を紡ぐ筈だったセオリーが二人を引き離した…こんな不条理な事ってある?
確信していた愛が暗転すると彼はその深淵を彷徨う様に私を残し、結局は別の道を選んだわ。
それでも私は最後まで彼の事を嫌いにはなれなかった…今の私がイニシアティブに耐えられるのも、ポジティブに打ち拉がれた不退転の恩恵にあやかれたから。
だからあの電話で『君の事が忘れられなくて』と言われた時、もう一度彼の事、信じてみようと思ったのに、彼、何て言ったと思う?」

「結婚してから夢を叶えたらいいとか…」

「妥当性に配慮したセンシティブな模範解答だったら不合理に感じる事さえなかったわ…せめて諫めるだけの強さが今の様にあれば、少しは後悔から救われたかな」

その自問から和やかな笑みが消えると、表情が険しくなり語気も荒立ってきた。

「『尽きた夢を追い求める事は不甲斐ない事だ…現実から目を背けず、俺と生きる道を選べ』と…その一言で私の礎は将来像と共に儚くも消えたわ。
自分を貫けない人が他人の私をどう信じ切ると言うの?
『結婚の意志があれば2週間以内に返事をくれ』とだけ言い残すと、彼は店を後にしたわ」

「今日が、そのタイムリミットっていうわけ…」

垂れ込めた雲間から覗く銀色の三日月が運命の矢を引き絞っている。