涙が止まらない私をみて、主さんはふっとわらうと
「涙でぐしゃぐしゃですっげー不細工だなお前」
失礼極まりないことをサラリと言ってのけた。
『っ、仕方ないじゃないですか、ヒナタちゃんこんな目にあっちゃうし、主さんまでなんか消えちゃいそうだし』
本当に消えそうだった、ヒナタちゃんも、私もすべてを残して恨みを晴らしてそのまま消えてしまいそうなそんな背中だった。
「俺は消えねぇよ、消えるわけがねぇ。」
変に自信に溢れた言葉で思わず声をもらした。
すぐに主さんは俺は主さんじゃねぇと仏頂面で呟く。
『だって、名前...知らないし』
「悠翔」
期待してたわけじゃなかった。
だから一瞬どういうことかわからなくて困惑した。
そしたら彼は鼻で笑って
「とろいやつだな、ブスの上に頭まで悪いのか?救いようがねぇな」
そう、悪口を言う。
でも、その目は優しくて、その整った唇は笑みを浮かべていて。
そして、理解した。
はるまというのが彼の名だと。
悠翔さんと呼べばぶっきらぼうに返事をするのが嬉しくて何度も何度も呼んだ。
「うるせぇ」
怒られたけどそんなこと気にならなかった。
だって、まるで夢のようで、本当に本当にうれしくて。
『私は悠季です!』
そう名乗れば彼は少し片眉をあげて食いついた。
「...字は?」
『えっと、はるかとも読む心が入った漢字の悠に...季節の季』
「は?一文字目同じじゃねぇか」
お母さんありがとうと心底思った。
この名前が一気に特別なものに感じて笑が止まらなかった。
同じ字...悠翔さん...悠翔...
何度も何度も口の中でもごもごと、彼の名前を確かめた。
「...ふん、まあいい、行くぞ」
その声に思わず吃る。
え?行く?逝く?
楽しかったのは反転して、あれ、これ死ぬんじゃないか?とか馬鹿な考えがよぎる。
でも、そんな不安はいい意味で裏切られる
「送ってやるって言ってんだよ感謝しろ」
言われてないし、って反射的に言えばじゃあ歩いて帰れと言われて思わず顔をのぞき込んで送ってくれるんでしょうなんて言ってしまった。
あとになって結構我ながらウザイ事したなと落ち込んだ。
でも、嬉しかった、遠かった距離が少しだけ近づいて。
少しだけ本当に少しだけ。
認めてもらえた気がして
バイクが走り出す前に
「さんきゅ、悠季」
バイクのエンジン音にそんな言葉が聞こえて笑ってしまう。
ああどうしよう。私、この人がとてもとても愛しくてたまらない。
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