そして、失恋をする

『私は、もうすぐ死ぬんだよ。別れるんだよ。好きなまま別れても、辛くないの?』

余命わずかという難しい役を演じているヒロインの口から、さびしげな声が聞こえた。

テレビに映っている女優は、余命わずかという役を演じている。ドラマの内容もヒロインの顔も僕の好きだった千春に似ているせいか、なんだか悲しくなる。

『辛くないよ』

テレビに映っている男性は、女性をまっすぐ見つめてそう言った。

『どうして?』

そう訊ねた女性の声が、かすかに震えた。

『僕が好きだった女性と、似てるから』

男性がそう口にした瞬間、今回のドラマがここで終了した。

「お父さん、ほんとうにおそいなぁ」

放送開始から毎週見ている恋愛ドラマを見終えて、僕は心配そうに壁掛け時計に視線を向けた。壁掛け時計の時間は、午後十時を指していた。

「千春に会いに行くか」

無性に千春に会いたくなって、僕は家を出た。