そして、失恋をする

食卓テーブルの上には父と僕の二人分の食事が用意されていたが、母親の食卓はなかった。

僕の右隣にいつも座っている母親の姿はなく、その反対側の席もまだ父親の姿はなかった。父親のテーブルの上にはサランラップでていねいに包まれた、今日の晩ご飯が置かれていた。

僕はおはしを右手で持ち、母親が用意した晩ご飯を食べた。白身魚のムニエル。きゅうりの浅漬け。白いご飯。母親が作った今晩のメニューはどれも僕の好きな食べ物ばっかりだったが、おいしく感じられなかった。

僕は食卓テーブルの上に置いてある、テレビのリモコンを手に取って電源ボタンを人差し指で軽く押した。その瞬間、テレビの画面が明るく映った。

『死ぬ人を好きになっても、辛くないの?』

明るくなったテレビから聞こえた声は、恋愛ドラマを演じる女性の高い声だった。

ドラマの内容は一度大好きだった女性を事故で失って恋愛に消極的になった男性の前に、好きだった女性とそっくりな人と出会うストーリーになっている。