そして、失恋をする


「ただいま」

夏休みの宿題を小林先生に提出した後、僕は疲れた様子で玄関のドアを開けた。

僕が家に帰って来る頃には空はオレンジ色に染まっており、時刻は午後十六時三十分を過ぎていた。

「おかえり、陸」

僕の声が聞こえたのか、母親の声が洗面所から聞こえた。

父親はまだ帰っておらず、食卓テーブルの上には晩ご飯が用意されていた。

「お母さん、お風呂に入ってるの?」

「違うわ、化粧してるの」

僕の質問に、母親が洗面所の扉を開けて答えた。

薄い唇に赤い口紅を塗り、バッチリ化粧をした母親の姿が僕の瞳に映った。

「お母さん、今からどこか出かけるの?」

そう訊ねた僕の声は、不安そうだった。

「今から、友だちと食事に出かけるの。晩ご飯はちゃんと用意してるから、食べておいてね」

明るい声で僕に伝えて、母親は鏡の前で自分の顔を入念にチェックしている。

最近、母親は僕たちの晩ご飯を作った後、夕方から出かけることが多くなった。帰って来るのは深夜で、母親の口からアルコールの匂いもしている。そのせいか、夫婦関係が最近では悪くなったように感じる。