「陸。俺は会社に行く準備で忙しいから、てきとうに朝食食べて学校に行く支度しろよ」

「うん、わかった」

視線をテレビに向けたまま短く返事した僕だが、それと同時に頭の中で今日は千夏とデートの約束をしていることを思い出した。約束というより、向こうが勝手に決めた予定だが。

「じゃあ、会社に行ってくる」

「行ってらっしゃい」

父親が家を出て会社に向かう姿を、僕はなにげない口調で見送った。

父親が会社に向かった後、僕は緩慢な動作で台所に向かって朝食の準備をし始めた。鍋のふたを右手で持ち上げて開けると、昨日の残り物のみそ汁がまだ半分くらい入っていた。みそ汁はすでに冷めており、僕はガスコンロの火を使って再び温めることにした。ボッという音と同時に、青い炎が鍋を加熱していく。