「おはよう」

寝室からリビングに歩いて移動した僕は、あくびまじりな声であいさつをした。

「おはよ」

そっけない言い方で、僕にあいさつを返してくる父親の姿が目に映った。

父親は朝から会社に行く準備で忙しいのか、黒いスーツを着て鏡の前でネクタイをていねいに締めている。

「お父さん、朝食食べたの？」

僕は食卓テーブルの上にテレビのリモコンとテッシュボックスしか置かれてないのを目で確認した後、父親に心配そうに訊いた。

「会社に行く途中で、どこかに寄って買って食べる」

「そう」

父親のそっけない返事を聞いて、僕はダイニングチェアに腰かけた。そしてテーブルの上に置いてあった、テレビのリモコンを手に取って電源ボタンを押した。暗かった画面が明るくなったのと同時に、僕の瞳にすらりとした色白の若いお天気キャスターの女性が映った。お天気キャスターの女性はなめらかな口調で今日の天気を伝えており、予報では今日一日晴れと報道していた。