パン屋さん。果物屋さん。粉屋さん。
珍しい野菜も売ってる。お団子みたいなお菓子屋さんもある。
朝食の店なのか、若い男達がズラリとイスに座って食べている姿もあった。

「ワイン職人が多いです。これから仕事に行くひとり暮らしの男性たちです」

あったかい湯気といい香りが歩いていても届く距離。素朴なミネストローネの香りがする。さっきお腹いっぱい食べたのにまたお腹空いて来た。

歩いているとシルフィンはよく声をかけられる。

若い女の子に「シルフィンの恋占い当たったよ」って大きく手を振られたと思ったら、布売りのおばさんに「また台所に小さな悪霊が出たから退治してくれる?」とか「うちは教えてもらったコキュの実を干してたら出なくなったよ」とか……街の人気者。

「凄いね」
無能の私と真逆じゃん。
こんな小柄でアイドル顔なのに使える女だ。

「そんな事はないですよ。街の人の役に立ちたくて占いとか小さな悪霊退治をしたり、王様に勧められたんです。全ては王様のおかげです」

褒められても謙虚に否定して頬を染めるだけ。
でも仕事はできる。

部下に欲しいと本気で思う。

「私なんてぜんぜん……」

「ドロボー!!!パン泥棒よ!つかまえて!」

叫ぶような声が後ろから聞こえて、人の波にぶつかりながら風のように走る男が後ろから猛ダッシュで私達を追い越して行く。

すると

シルフィンが垂直に高く高くその場でジャンプして、ふんわりゴズロリドレスのポケットから細いワイヤーのような物を取り出して投げると、男の動きがピタリと止まる。

捕えた……凄い反射能力

そして

顔が……怖い。
暗殺者の顔だ。

なめたらアカンよシルフィンちゃん。