「風邪ひいたかな?何だか急に身体がだるくて泣きたくて切なくて……苦しくなった」
正直に言ったら、勇翔は私の額に手を重ねた。

「熱はないけど、食事はやめて家に帰ろう」

「大丈夫。そんなんじゃないんだけど、本当に自分でもわかんない」
私は勇翔のキャメルのコートに抱きついた。

「里奈が外で抱きつくなんて珍しい」
そう言いながら彼の手が私の腰にまわる。

「ごめんね。会社の人に見つからないように」

「見つかってもいいさ。俺が里奈に就任早々ひと目惚れして、そのまま強引に付き合ってもらい今は婚約中なんだから堂々としよう」

「ありがとう」
会社の御曹司で副社長の勇翔。
背が高くて男らしくて仕事もできるイケメンさん。私と恋に落ちるなんて想像もつかなかった。顔が綺麗なせいなのか肩書が大きいからなのか、怖いイメージもあったけど、勇翔は優しくて思いやりに溢れた人で、私にはもったいないくらいの素敵な男性だった。

「母がまた里奈に会いたがってる」

「嬉しいなぁ。勇翔のお母様って優しくて可愛いから好きよ。もちろん社長も好きだけど」

「俺と弟しかいないから、父も母も里奈が可愛いんだろう。家に連れて行くと里奈を奪われるから嫌だな。知らん顔しようかな」

「社長に怒られるよ」

「いいさ」
素早く私の唇にキスをする勇翔。

大好きな勇翔。
来年の春には彼の妻になる
幸せになろうね。

「彼を幸せにするからね」
あったかい彼の腕の中で、自然に出た言葉だった。

空には月が輝いている。

公園の樹がサワサワと揺らいでいた。