ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ

社長の言葉に喜田さんが拗ねたように言う。

「社長と蘭子様が仲違いされているから、私め十五年も長きの間、東條寺家を離れることになったんですよ」

聞けば、家を出る蘭子さんに「喜田を連れて行って欲しい」と社長は懇願したそうだ。おそらく監視のためだろう。

それは飛んだとばっちりだ。
可哀想な喜田さん。

「悪い悪い。蘭子さんがこんなに頑固だとは思わなかったんだよ。本当、いつまでも魅力溢れる女性だ」

今のは惚気だろうか?

「――今回も期待はしておりませんが、精々、頑張って下さい」

喜田さんももう諦めているのか、その言い方は淡々としたものだった。

「それではお車の方に。これ以上遅れると蘭子様から連絡が入りますゆえ」
「もしかしたら、GPS? また探偵ごっこ?」

副社長が「止めてくれよ」と額に手を当て天を仰ぐ。

「奥様の唯一の趣味ですから」

探偵ごっことかGPSとか趣味とか、何それ?

「父さんと蘭子さんの本当の別居理由ってそれだろ?」

えっ? 結婚記念日を一日間違えたって話じゃなかったの?

「何だ、知っていたのか」

社長が苦笑いを浮かべる。