ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ

「山本はこの建設現場が何の現場か知っているよな?」
「どこだかの会社ですよね?」
「大手ゼネコン『丸東建設』の新社屋だ。それぐらい覚えとけ」

丸東建設……そうだったんだ。
基本、私は届いたメールの中から一番日給のいい派遣先を選ぶ。会社の名前なんて見ていない。

丸東建設は新堂コンツェルンのライバル会社だ。例の三本の指の一つだ。双方は祖父の代から仲が悪かった。今さらだが最悪の現場だ。益々正体がバレる訳にはいかない。

「その副社長っていうのに、美和はゾッコンなんだ」

思った通り美和さんの前職はホステスさんだった。そこで副社長に出会い一目惚れしたらしい。

「で、どこで聞いたのか新社屋建設の話を聞きつけ、水商売を辞めたんだと。理解不能な奴だ。そして、畑違いのここで働き出したって訳だ。スカートみたいだろ?」

ガハハと笑う常爺さんに、『それを言うならスカートじゃなく、ストーカーね』とツッコミたかったが、グッと我慢する。

「その副社長の定期視察が今日みたいだ。先月は海外出張だか何だかで来なかったからな」

私がこの現場で働き始めたのは先月からだ。

「だからあんなに喜んでるんだ」

なるほど、と納得する。

「今日はもうアイツにいびられることはないぞ」

確かに! 美和さんの意識は既に副社長とやらに向かっている。化粧ポーチを取り出すと丁寧に化粧直しを始めた。