「山本はこの建設現場が何の現場か知っているよな?」
「どこだかの会社ですよね?」
「大手ゼネコン『丸東建設』の新社屋だ。それぐらい覚えとけ」
丸東建設……そうだったんだ。
基本、私は届いたメールの中から一番日給のいい派遣先を選ぶ。会社の名前なんて見ていない。
丸東建設は新堂コンツェルンのライバル会社だ。例の三本の指の一つだ。双方は祖父の代から仲が悪かった。今さらだが最悪の現場だ。益々正体がバレる訳にはいかない。
「その副社長っていうのに、美和はゾッコンなんだ」
思った通り美和さんの前職はホステスさんだった。そこで副社長に出会い一目惚れしたらしい。
「で、どこで聞いたのか新社屋建設の話を聞きつけ、水商売を辞めたんだと。理解不能な奴だ。そして、畑違いのここで働き出したって訳だ。スカートみたいだろ?」
ガハハと笑う常爺さんに、『それを言うならスカートじゃなく、ストーカーね』とツッコミたかったが、グッと我慢する。
「その副社長の定期視察が今日みたいだ。先月は海外出張だか何だかで来なかったからな」
私がこの現場で働き始めたのは先月からだ。
「だからあんなに喜んでるんだ」
なるほど、と納得する。
「今日はもうアイツにいびられることはないぞ」
確かに! 美和さんの意識は既に副社長とやらに向かっている。化粧ポーチを取り出すと丁寧に化粧直しを始めた。
「どこだかの会社ですよね?」
「大手ゼネコン『丸東建設』の新社屋だ。それぐらい覚えとけ」
丸東建設……そうだったんだ。
基本、私は届いたメールの中から一番日給のいい派遣先を選ぶ。会社の名前なんて見ていない。
丸東建設は新堂コンツェルンのライバル会社だ。例の三本の指の一つだ。双方は祖父の代から仲が悪かった。今さらだが最悪の現場だ。益々正体がバレる訳にはいかない。
「その副社長っていうのに、美和はゾッコンなんだ」
思った通り美和さんの前職はホステスさんだった。そこで副社長に出会い一目惚れしたらしい。
「で、どこで聞いたのか新社屋建設の話を聞きつけ、水商売を辞めたんだと。理解不能な奴だ。そして、畑違いのここで働き出したって訳だ。スカートみたいだろ?」
ガハハと笑う常爺さんに、『それを言うならスカートじゃなく、ストーカーね』とツッコミたかったが、グッと我慢する。
「その副社長の定期視察が今日みたいだ。先月は海外出張だか何だかで来なかったからな」
私がこの現場で働き始めたのは先月からだ。
「だからあんなに喜んでるんだ」
なるほど、と納得する。
「今日はもうアイツにいびられることはないぞ」
確かに! 美和さんの意識は既に副社長とやらに向かっている。化粧ポーチを取り出すと丁寧に化粧直しを始めた。



