「短時間で稼げるから」

意識を戻して愛想なくポツリと答える。

『性別で差別されたくない』そんな思いが働いているからだ。仕事中は男性気取りで無愛想に振る舞っている。

外見も同様だ。腰まであった髪をバッサリ切り、ノーメークに大きな黒縁眼鏡を掛けて、ボーイッシュに見えるようにしていた。

現在の姿からお嬢様だった頃の姿は絶対に想像できないだろう。

「訳があるんだろうが、けどよぉ、あんまり無理すんな。力仕事は体力あってだ。無理すると潰れっぞ!」

常爺さんと一緒に働くのはこの現場で三回目だ。お孫さんと私の年齢が同じくらいらしい。だから、事あるごとに優しい言葉を掛けてくれる。この現場で唯一の味方だった。

「おい、ブス! チンタラ食べてて午後の作業に遅れるなよ!」

唯一というのは……こんなふうに、現場監督を筆頭とする同僚たちに、どうやら私は嫌われているらしい。

理由はおそらく……これ。

「やだぁ、ブスにブスって言っちゃったらシャレにならないんじゃない……」

『ここはキャバクラじゃないよ』と注意したいほど甘ったるい香水の匂いをさせ、美人なのにケバケバしい化粧をしたこの女性、三上美和さんが元凶だ。

なぜか美和さんは初対面から私を嫌っていた。私とは何もかもが正反対だからだろうか?

美和さんは女であることを武器にして、肉感的なボディを隠そうともせず、男性たちを上手に味方に付けて働いていた。だから、男性陣も甘え上手な美和さんには何かと優しい。