しかし、そこは私がクビになった現場だ。お伴は勘弁して欲しかった。やっぱりバツが悪い。でも……。

『奈々美、お前も行くんだぞ。スニーカーに履き替えろ』

連れて行く気満々の副社長に拒否の姿勢は認められなかった。

結局、車椅子の使えない現場で、私はまたしても松葉杖の代わりになった。
剣持さんがいるというのに……。

でも、それを言ったら、『優秀なアイツを松葉杖の代わりに使えると思うか?』とごもっともな意見を副社長は宣わった。そして、付け加えるように、『お前が丁度いいんだ』と笑った。

何をもって丁度いいのか分からなかったが……どうやら私たちの会話を一部始終美和さんは聞いていたようだ。

――で、今に至るという訳だ。



「貴女、私を裏切ったわね!」

『裏切る』の意味は『味方に背いて敵につく』『人の信頼に背く行為をする』『期待や予想に反する』があるが……私たちの関係はそれらのどれにも当て嵌まらない。

「拓也様をお慕い申し上げていたのを貴女は知っていたでしょう!」

確かに常爺さんから聞いた。

「ズルい! 私が階段から落ちれば良かった」

できるなら、そうであって欲しかった。私もその方がどんなに嬉しかったことか。

「そしたら貴女の代わりに私が……」

ギャンギャン吠えながら美和さんは悔しそうに瞳を潤まし始めた。
ドアドンされているのは私なのに……まるで私の方が苛めっ子だ。

はーっと長嘆息を吐いたと同時に、「それはないな」と第三者の声が会話に割り込んできた。