「それで? 社長は何をなさっているのですか?」
「いや、今、部屋に戻ろうと思っていたところだ」
「では、早々にお戻り下さい。貴方の秘書たちが困っていると思います」

そう言えば社長の秘書と思しき姿がない。
きっとこういうことは日常茶飯事なのだろう。

「副社長もです。デスクに書類が山積みです」
「あっ、怪我のせいで業務が滞っているのですね。本当にすみませんでした」

慌てて頭を下げると、「君が謝る必要はないよ」と社長が口を挟む。

「君を庇って怪我をしたのは拓也の意思だ」
「でも……」
「社長の仰せの通りです」

剣持さんが大きく頷く。

「どうせレーダーが察知したんでしょうから」

レーダーって何だろうと思っていると、剣持さんが社長と副社長に目をやりながら溜息を吐く。

「このお二人……いえ、先代もでしたが、仕事に関してはとても優秀で切れ者なのですが、その反動と申しましょうか、無類の可愛い物好きでして、瑞樹様などドストライクでして……」

「瑞樹?」

社長がピクッと反応する。

「それは誰だ?」
「誰でもいいだろ」
「よくない! 内緒とはずるいぞ拓也」
「シャーラップ!」

剣持さんの目が社長室を指す。