ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ

あれっ? 思い違いだったのだろうか。丸東建設のビルだと思ったが……。

「拓也様、店には連絡を入れておきました。スケジュールが押しておりますので速やかにお済ませ下さい」

剣持さんがバックミラー越しにチラリと後部席を見る。

「最長?」
「十五分です」
「分かった」

阿吽の呼吸とでも言うのだろうか? 二人の会話がテンポ良く進む。
会話の内容から、立ち寄るところがあるから会社を行き過ぎたのだなと分かる。

そこにはものの五分ほどで着いた。
車が停まったのは、高級ブティックが軒を並べるハイソな通りの一角だった。

「奈々美、行くぞ」
「えっ?」
「時間がない、早くしろ」

訳も分からず急かされて、通りの中の一軒に入る。
誰もが良く知っているロゴの店だ。

「東條寺様、いらっしゃいませ」

夜会巻きが見事な店員さんがにこやかに挨拶をする。
年齢は不詳だが、美人の上、とてもやり手のように見えた。

「お時間がないとのことですので、取り敢えず一週間分、六着ご用意致しました。こちらのお嬢様ですね。まずはフィッティングルームへ」

有無も言わさぬ勢いで、ズルズルと小部屋に引き摺られ、「これに着替えて下さい」とスーツを渡される。

まさか……。
悪い予感ほど当たるものだ。

「副社……拓也さん、これってマイ・フェア・レディ、もしくは、プリティ・ウーマンごっこですか?」