ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ

ウニウニと頬と頬を寄せる副社長を剣持さんは呆れ眼で見つめながらも、「確かに可愛いですね」と瑞樹のサラサラの髪をソッと撫でる。

この人、絶対にいい人だ!

副社長ではないが、私の善悪の基準は瑞樹だ。瑞樹に親切にしてくれる人は全面的に信用してしまう傾向にある。

副社長を胡散臭いと思いながらも嫌悪しないのは、瑞樹を本当に可愛いと思っていてくれるからだ。

「剣持、瑞樹に触るな。この可愛い生き物は僕のだ」

いや、貴方のではない!

「触りませんからそろそろ参りましょう。山本さん、改めまして剣持恭吾と申します。拓也様のことよろしくお願いします」

剣持さんが礼儀正しく美しいお辞儀をする。
本当はよろしくなどしたくないが……。

「こちらこそ、副社長が完治するまで家政婦としてよろしくお願いします」
「完治するまでねぇ……」

剣持さんは小さく呟くと意味深に副社長に目をやり、「まずどちらに参ればよろしいのでしょう?」と訊ねる。

「南保育園に行ってくれ」
「了解しました」

いつも思うが、高級車は伊達に高級車じゃないと思う。
このベンツはその中でも最高級のものだろう。最高に乗り心地がいい。

副社長のマンションから保育園まで車で二十分。保育園から会社まで十分。実に快適な通勤時間だった……と思っていたら、なぜか会社を通り過ぎてしまった。