なのに……。
姉の葬儀は新堂家で執り行われたが、両親と兄は姉を許したわけではなかったみたいだ。

初七日を済ませたあと、『瑞樹はあの男の子供だ。向こうに引き取ってもらう』と、いつの間にかそんな話になっていた。

瑞樹を託されたのは私だ!

両親と兄に『私が育てる!』と宣言をして家を飛び出した。そして、姉が隠れ住んでいたアパートに身を寄せた。

兄が私の家出を止めなかったのは……世間知らずの私が尻尾を巻いてすぐに帰って来ると思ったからだ。

でも……兄の思惑は見事に外れた。
但し、世間はそんなに甘くはなかった。

私は家業が好きだった。だから大学も建築家を目指せる大学に入った。成績は優秀でコンクールで賞を貰ったこともある。卒業後は兄同様『新堂コンツェルン』に入社する予定だった。

だが、家を出たと同時に私はそれらを全て捨てた。身元がバレて連れ戻されることを恐れたからだ。名前も母方の実家の苗字を使った。“山本奈々美”これが今の名だ。

蓄えはそこそこあった。だから、たちまち困窮することはなかったが、行く末を考えたら早めに仕事に就くべきだと思い、就職活動を始めたのだが……。

時期外れの上、身元のハッキリしない胡散臭い小娘を、正社員で雇おうなどという奇特な会社はどこにもなかった。